犬が吠えども、キャラバンは進む。

Biar anjing menggonggong, kafilah tetap berlalu. インドネシアでひとを研究しているある院生の備忘録。

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インドネシアのデモ、学生たちは何に怒っていたのか【2019年9月から始まった学生デモについて】

こんばんは、今日はちょっと真面目なお話。

 現在(2019年10月)、インドネシアの各地で刑法改正案に関するデモが行われています。このデモは学生を中心に先月(2019年9月)から行われ始め、収束する雰囲気を見せていません。10月に入り徐々に落ち着いてきたという報道がありました。

www.jetro.go.jp

 今回のデモは、私がインドネシアに来て以来最も大きなものとなりました。警察は催涙ガスなどをデモ隊制圧に使用しています。デモに参加して亡くなった学生もいるようです。

 インドネシアの学生たちは、何に対してそんなに怒っていたのか?

 彼らが警察の制圧に抵抗し続けた理由は何か、とても気になったので調べてみました。ちなみに、私は政治に関しては専門外の素人です。インターネットから得た情報と現地の友人に聞いてみたことをまとめただけの記事になりますので、情報(翻訳)に誤りがあるかもしれません。そのため内容の引用などはご遠慮ください、ご了承下さい。

 最後に参考にしたサイトを一覧で載せていますので、詳細などが気になる方はそちらでご確認ください。

2019年10月9日:インドネシアの法制定の仕組み、デモのメインイシューに関することなどを追記しました。
2019年10月10日: 10月2日のデモを最後に沈静化しつつあるという報道がありました。今後も進展・追加情報があれば追記します。

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「多様性の中の独立」と書かれた落書き

インドネシアの学生たちは何に対してデモを行っているのか

 インドネシアの学生たちは、九月に行われた法改正(案)の議決に抗議するためにデモを行っていました。

2019年9月17日:汚職撲滅委員会を弱体化させる法案が可決された

 まず2019年9月17日に、インドネシアの国会はある法改正案を可決しました。それは、国会汚職撲滅委員会(KPK)というインドネシアの汚職を摘発するための組織を弱体化する法案でした*1

 汚職撲滅委員会は独立した捜査権を持つ組織であり、数々の汚職を暴いてきた組織だと言われています。その汚職撲滅委員会を監視する法案が可決されたため、「実質的に汚職撲滅委員会を弱体化させた」として、大規模デモに発展しました。

 またインドネシアの法律は、国会で議員と大統領が審議し可決された法案に対し、最終的に大統領が賛同し署名することで制定される仕組み*2になっています。

 そのため、2019年5月に汚職撲滅を掲げ再選*3したジョコウィ・ドド大統領の「裏切り」に対する怒りも込められている*4と言えそうです。

 汚職(Korupsi)、特に国家権力を握る政治家による汚職は、インドネシア国民にとって根絶すべきものであるという風潮が強いです。おそらくそれは歴史的にインドネシアの政治家による汚職(とんでもない金額らしい)が蔓延っていた(?)ことと関係があります。「日本の政治家も汚職をするの?」と聞かれるくらい、汚職はポピュラーかつ政治的関心を集める話題です。そんな汚職に立ち向かうための組織が、弱体化させられたとなれば国民は怒り心頭です。

2019年9月24日:「婚外交渉」「中絶」等を刑罰化する改正案が議決予定だった

 そして国会では、また別の刑法改正案の議決が9月24日に予定されていました。その刑法がこれまた厄介なもので、実はインドネシアに入国する外国人にも影響があるかもしれないものでした。オーストラリアなどではインドネシアに行く予定のある自国民に対して大々的に警告が発せられたほどです。

 それは、「婚外交渉」や「中絶」が刑罰化されるという改正案(刑法417-419)*5でした。すでにデモを行っていた学生たちはこの改正案に対しても抗議を拡大していきました*6

 インドネシアはイスラム教徒が多数を占める国ですが、あくまでも多宗教国家でありますし、国民の生活に国家権力やイスラムのシャリーア法が強制的に介入してくること対して大きな抵抗感があるようです*7

 また改正案の内容が、女性やゲイなどのLGBTに対する抑圧と捉えられるようなもの*8も含まれている、という情報も拡散されています。(そのような条項はないとする意見もあります。改正案を書き起こすことも考えましたが、どれが本物かわからず断念しました。ただ、改正案が規定する「夫婦(Suami-Istiri)」をどのように解釈するのか、証明するのかという点がかなり曖昧であるため、警察や政府の恣意的な解釈による「逮捕」が行われるのではないかという懸念もあるようです。)

 さらに、バリなどの観光地で外国人にも適応されるということになると、「結婚していない外国人カップル」も、バリ旅行に行けないということにもなりかねません。そうした経済的な影響を指摘する声もあるようです*9

「婚前交渉」に対する風当たりはもともと強いが・・・

 インドネシアは「婚前交渉」、特に結婚をする前の若い男女の「婚外交渉」に対する風当たりがとても強い社会です。結婚していない男女が同室にいることはなるべく避けるべきと考える人が多いです(ジャカルタなどの都市部では全く異なる価値観があると考えられますが・・・そして各家庭の厳しさにも左右されます)。

 万が一、男女が二人きりで、しかも服が乱れているような状況を発見されたということになると「結婚させられる」なんてこともあるみたいです。また、俗にいうデキ婚を恐れて、家族が「婚約」を迫るなんてこともあります。地域・家庭によって、そうした価値観に開きはあるものの、社会的な建前として「婚前交渉はNG」ということになっています。

 以前宿泊したジョグジャカルタのあるゲストハウスは、結婚していない男女の同室泊を認めていませんでした。それについては、経営者の方針ですし、私もある程度(一般的にみるとかなり)保守的な思想をもっているので全く気になりませんでした。しかし、経営者が自分のゲストハウスに適応するルールと国家のルールでは全く次元が違います。しかも今回は「刑罰化」という最も強制力のあるルールの改正です。

 法律で制定されるとなると、「交渉」の余地はありません。警察や国家権力が法を盾に、国民の私生活へ介入することになります。どんな手を使って、強制・恣意的な「捜査」が行われるかもわからない、処罰の対象が広がる可能性も否めない、そうした恐れが学生たちを駆り立てていると考えられます。

裁判官や大統領などの権力者に対する批判が処罰対象になる可能性もあった

 さらに、裁判官(Hakim)や大統領(Presiden)に対する批判や侮辱が処罰対象になるような刑法改正案(刑法218-220)の議決も予定されていました*10

 そのため、民主的な報道・表現・批判の自由が脅かされるとして、抗議の声が上がりました。

 こうした法改正案を任期末の9月に詰め込み立て続けに(十分に議論せず)可決しようとしたことも、学生をはじめとする国民の不信感を増幅させたようです。

LGBTは、メインイシューではない

 近年インドネシアの若い世代の間では、「中絶」や「LGBT」などの宗教的な禁忌に対しても、人道的理由を考慮するべきという議論・デモが盛んにおこなわれています。そうした中で、上記のような刑罰化案が提出されたという状況です。

  しかし、社会一般的にLGBTに対する差別・拒否反応はとても強く、今回のデモがLGBT(の刑罰化←そもそもただの噂)と結び付けられて報道されることに対して疑問の声が上がっているようです。特に大々的にデモの抗議対象としてLGBTを挙げている報道に対しては「事実を確認してから報道してくれ」と直接批判する人もいたようです*11

 今回の刑法改正案では、直接的にLGBTを対象とするものはないと言われており(私も探してみましたが見つかりませんでした)、特に外国メディアの報道を読む際には少し注意が必要かもしれません。

2019年9月26日:実弾による負傷でデモに参加していた学生が死亡

 こうした状況の中、9月26日にはデモに参加していた学生が実弾によって死亡するという事態が発生します。大統領であるジョコ・ウィドドは、警察に対して事態解明の調査を命じますが、警察側はゴム弾しか使用していない、実弾発射は警官が行ったものではないとしています*12

 8月の独立記念日にパプアの学生を誤認逮捕したときも、警察は結局謝罪しなかったと記憶しているのですが(その後パプアでは大規模なデモが発生)、おそらく学生を含めたインドネシア国民の中では警察に対する不信感というものも、今回の一件でより高まっていくのではないかなぁ・・・と心配です。

 SNSに出回っているビデオでは、モスクに逃げ込んだ学生を追いかけてきた警官が土足でモスクを踏み荒らし、その場に居合わせた男性に注意され、追い返されるという場面が映し出されていました。こうしたビデオが、現在のデモと確実に関わりのあるものなのかはさておき、少なくない数の国民がデモ隊の行動を肯定し、同時にこうした法改正を行う国家権力および制圧を行う警察や軍に対して不信感を募らせている可能性は高そうです*13

 最近の警察はあんまりチップとか要求しないし、ちゃんと警察外から汚職に対する調査(もしかして、まさにKPKの人だったのかもしれない・・・。)とかが入っていたので結構信頼していたのですが・・・・。

刑法の改正案(婚外交渉・中絶などの刑罰化)は延期 

  9月20日には、大統領ジョコウィが刑法改正案の見直しを指示*14しましたが、「延期」という扱いのため、学生たちはデモをやめることはありませんでした。

 汚職撲滅委員会に対して監視をつけるという法案は、可決されてしまっていますし、学生の死亡という最悪の事態が発生してしまった今、事態の収束を図るのはかなり難しいのではないかと思います。

 大統領は学生と対話しようとしているらしいのですが、学生たちは公的に、国民に向けて話をしてほしいと要求していたようです。

10月に入り徐々に沈静化しつつあるようです

 ジャカルタなどの地域では10月に入り、新たな国会が始動したことで、デモが徐々に沈静化しつつあるようです。

2019~2024年度国会が始動、抗議デモは沈静化 | ビジネス短信 - ジェトロ

 実はインドネシアには、学生のデモ・学生に対する発砲事件が国を大きく動かしたという歴史*15があります。学生たちの抗議はどこまで国を動かせるのか、「止める」のか、「進む」のか。このデモもまた、インドネシアという国の歴史を大きく動かすものとなるのかもしれません。少なくとも、国会や大統領がこれまでの抗議デモを完全に無視することは難しいのではないかと思います。

まとめ

  • インドネシアの学生は、デモで法律に関する抗議をしている
  • 汚職撲滅委員会(KPK)の監視法案と「婚外交渉」「中絶」「大統領侮辱」等を処罰対象とする刑法改正案に対する抗議が主題。
  • 刑法の改正案に関してはいろんな解釈(噂)が飛び交っていて、かなり混乱している。
  • デモに参加していた学生が亡くなった。
  • 警察のデモ制圧のやり方に対する抗議、学生死亡後の対応(調査が進展していないこと)に対する抗議、汚職撲滅を掲げていたはずの大統領に「裏切られた」ことへの抗議も含まれていそうです。

デモが激化して、警察も鎮圧に催涙弾やゴム弾を使用しているようなので、現地にいる方は巻き込まれないように注意してください。

以上、インドネシアの学生たちが路上におりてデモをしている理由について調べてみたまとめでした。

参考にしたサイト一覧(日本語・英語・インドネシア語)

www.newsweekjapan.jp

www.cnn.co.jp

www.jetro.go.jp

www.jetro.go.jp

dbmedm06.aa-ken.jp

www.theguardian.com

www.theguardian.com

www.bbc.com

katadata.co.id

nasional.kompas.com

nasional.kompas.com

www.liputan6.com

katadata.co.id

www.cnbcindonesia.com

www.bbc.com

news.detik.com

news.detik.com

nasional.kompas.com

www.tribunnews.com

*1:インドネシア警察、学生デモ鎮圧に実弾射撃で死者2名 取材記者にまで暴力 | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

ジャカルタで大規模デモ、汚職関連法などの改正で | ビジネス短信 - ジェトロ

Ini 26 Poin dari UU KPK Hasil Revisi yang Berisiko Melemahkan KPK Halaman all - Kompas.com

*2:参考「法令の制定に関する2011年法律12号の改正をめぐる状況」2節(pp.72-73):法務省:インドネシア

*3:インドネシア総選挙、ウィドド大統領が再選 - BBCニュース

*4:Not just about sex: Indonesia's protests explained - BBC NewsRevisi UU KPK Diduga Muncul untuk Hentikan Kasus Besar

*5:Penjelasan Isi RUU KUHP soal Perzinaan - News Liputan6.com

*6:RUU KUHP Tentang Seks di Luar Nikah Kena Pidana Jadi Viral

*7:Indonesia's criminal code: what is it, why does it matter, and will it be passed? | World news | The Guardian

*8:あくまでも、そう捉えられる・デモの抗議対象となっている事項であり、実際に刑法改正によって影響を受けるかはわかりません。参考:Pakar Hukum: RUU KUHP Tidak Pidanakan LGBTBenarkah Wanita Pulang Malam di RUU KUHP Bisa Dipidana? Yuk Cek Faktanya

*9:https://www.cnbcindonesia.com/news/20190926084741-4-102323/ruu-kuhp-tentang-seks-di-luar-nikah-kena-pidana-jadi-viralCNN.co.jp : インドネシアで学生らがデモ 刑法改正案に抗議

*10:RUU KUHP: Kritik atau Pendapat Atas Kebijakan Pemerintah Tak Termasuk Penghinaan Presiden - Tribunnews.com

*11:Salah Kaprah Media Asing soal Demo Mahasiswa di DPR hingga Respons Netizen Halaman all - Kompas.com

*12:インドネシア警察、学生デモ鎮圧に実弾射撃で死者2名 取材記者にまで暴力 | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

*13:Survei LSI: Mayoritas Publik Dukung Demo Mahasiswa Tolak Revisi UU KPK - News Liputan6.comDemo mahasiswa: 'Anak saya babak belur, alasan polisi emosi petugas sedang tidak terkendali' - BBC News Indonesiaジャカルタで大規模デモ、汚職関連法などの改正で | ビジネス短信 - ジェトロ

*14:Alasan Presiden Jokowi Minta DPR Tak Sahkan Revisi KUHP - Tribunnews.com

*15:インドネシア/現在の政治体制・制度 | 中東・イスラーム諸国の政治変動



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